仙台高等裁判所 昭和42年(く)20号 決定 1967年10月14日
少年 T・H(昭二五・八・四生)
主文
原決定中窃盗の点を除く部分を取り消す。
本件を福島家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の趣意は、少年名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
一、所論は、まず、本件非行事実のうち、公然猥褻の点については、検察庁における取調べを受けていないのに、ただちに家庭裁判所における審判を受けたことは納得できないと主張する。しかしながら、記録によれば、本件非行事実のうち、公然猥褻の点についても、司法警察員より福島地方検察庁検察官に対し事件送致がなされたうえ、同地方検察庁検察官より福島家庭裁判所に対し事件を送致するという少年法所定の手続がとられていることが明らかであり、また、少年法第四二条によれば、検察官が、事件を家庭裁判所に送致するについて、かならず少年をみずから直接に取り調べなければならないものとの法意を窺うことはできないのであつて、家庭裁判所に対する本件送致手続には何ら違法の点を発見することはできない。論旨は理由がない。
二、所論は、また、本件非行事実のうち窃盗の点については、審判の結果、証拠不十分のため不処分とするとされたのに、書面上は窃盗罪として少年院に送致されていることは納得できないと主張する。しかしながら、少年に対する中等少年院送致決定は公然猥褻の事実と無免許運転の事実についてなされたこと及び所論の窃盗の点については、少年に不法領得の意思があつたことを認めることができないとして、少年法第二三条第二項にいわゆる不処分決定を言い渡したことがそれぞれ明らかであり、少年院送致関係書類に窃盗という表示が付されているとしても、それは少年について窃盗保護事件としても審判を経由したものであることを形式上表示するにすぎないというべきであつて、何ら法令に違反するものではない。論旨は理由がない。
三、所論は、さらに、本件非行事実のうち公然猥褻の点については、友達と一緒に犯行現場にいたため、飯坂警察署で参考人として取調べを受けたにすぎないのに、同罪として処分を受けたのは納得できないと主張する。そこで、記録を調査すると、少年は、昭和四二年六月○日午後五時ごろから同五時三〇分ごろまでの間、A、B、C及びDの四名とともに、福島市○○町字○×番地裏側付近○○川から同町○○○○○×番地市営○○プールまでの間、約四〇〇メートルにわたり、魚を採りながら○○川を北上し、さらに旅館等の立ちならぶ道路に出て南下し、水のない右プールでボール遊びをしたこと及びその間、通行人及び旅館従業員その他観光客等がみることができる状態のもとで、前記Aら四名がそれぞれ全裸となつて陰茎を露出したことが明らかであるけれども、木○エ○子、伊○シ○子及びDの司法警察員に対する各供述調書謄本ならびに少年の司法警察員に対する供述調書によれば、少年は、○○川に入るにあたり、タオルを腰に巻いて陰茎が露出しないようにしたこと及び右タオルは前記○○プールまで終始腰に巻いていたことが窺われるのであり、また、当審における事実取調として施行した受命裁判官の証人木○エ○子、同C及び同Dに対する各証人尋問調書ならびに受命裁判官の少年に対する審尋調書によれば、右事実が確認されるほか、少年がAら四名との間に全裸となつて陰茎を露出することについて共謀したことはないことが明らかであつて、これらの事実関係に徴すると、原決定が少年についてAら四名との共謀にかかる公然猥褻の非行事実を認定したことは重大な事実の誤認というほかはなく、この限度において原決定は取消を免れない。論旨は理由がある。
そこで、本件抗告は理由があるから、少年法第三三条第二項、少年審判規則第五〇条により、原決定中窃盗の点を除く部分を取り消し、本件を福島家庭裁判所に差し戻すこととし、主文とおり決定する。
(裁判長裁判官 有路不二男 裁判官 西村法 裁判官 桜井敏雄)